版画作家の道を志した、作品との出会い

彫った溝に詰まるインク。シャープな線の美しさ――。銅版画の魅力に取りつかれたきっかけは、高校の美術の教科書で見たドイツ人作家、ホルスト・ヤンセンの作品でした。キャプションを見ると「銅版画」と書いてあって、すぐに美術の先生に銅版を買ってもらい技法書を借りてその日から自己流で勉強を始めたんです。大学に進学して版画を専攻。そこから20年間、銅版画を続けています。海で拾った動物の骨や貝殻など漂着物をモチーフに作品づくりをすることが多く、モチーフ探しに海へ行きます。

作品が導いてくれた街

ポーランドへ行くことになった受賞作品

自分の作品を初めて海外の展覧会に出品して、賞を貰ったのは大学3年生のとき。一人でポーランドに行きました。ポーランドでは、ポーランド語しか通じないと聞いていたので、機内で「こんにちは」「ありがとう」と挨拶程度の言葉を少し勉強ながら向かい、首都ワルシャワから電車に乗ってウッチという街を訪れました。「タダで泊めてあげる」と言われ案内された宿は、窓から屋根しか見えないような古い建物でした。劇団員が寝泊まりしていたのか、部屋の片隅には大道具が置いてあって宿も、景色も、食事も、魅力的に感じたことを印象深く覚えています。

ポーランド ウッチ
展示を行ったギャラリー「Willa Gallery」

初めてのオークション

展覧会のほかに、オークションにも参加しました。自分も作品を持っていくと、会場の取材にきていた現地の記者の方が買ってくださったんです。その場でお金と交換し、そのお金で自分もオークションに参加してポーランド人作家の版画を購入しました。現地でしか活動していない作家の作品にも触れられて貴重な経験になりました。

ポーランドのオークションで落札した作品

身銭を切って旅に出る

海外は歩くだけで楽しいし、その時間を幸せに感じます。旅は私にとって、毎日の生活の中では出会えない景色を見せてくれて、新鮮な気持ちにさせてくれるものです。お金を払ってでも行く価値が必ずある。多少背伸びをしてでも、そんな旅の時間を経験するために時々出かけたいです。

行き先は気の向くままに

旅先では思うまま、行ってみたい方へ向かうことが好きです。そうすると周りからは、「そんな危険なところに行ってはダメ」と注意されるけど、その国の生活感があるところが見てみたくなるんです。一度「面白そう」と思うと好奇心が高まってやみません。これからも美術館やギャラリーだけでは出会えないものを求めて、旅を続けていきます。

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